第三章
低級リン酸塩
リンの酸素酸には、リン酸(オルトリン酸:H3PO4)である五価のリン化合物以外に、
一価の次亜リン酸(H3PO2)と三価の亜リン酸(H3PO3)が知られている。
次亜リン酸塩は、強力な還元性を有しており
無電解ニッケルリンめっきの還元剤として広く使用されている。
これは、硫酸ニッケルと次亜リン酸塩とが反応し、
薬液と接触した表面にNi-P(非晶質)合金を析出させる働きをする。
Ni2 + H2PO2 + H2O →
Ni↓+2H + H(HPO3)–
亜リン酸塩は、酸化性と還元性を有している。
用途は電気めっき浴への添加物などとして使用されている。
亜リン酸はHP(O)(OH)2(ホスホン酸)側へ互変異性化する。
この化学種の平衡はP(OH)3(亜リン酸)側が劣勢である。
性質
水溶液
次亜リン酸は、一塩基性酸であり、亜リン酸は二塩基性酸でありpH変曲点は二箇所である。各オキソ酸の解離定数を表1.に示す。
pk1 | pk2 | pk3 | |
---|---|---|---|
次亜リン酸 | 1.23 | – | – |
亜リン酸 | 1.5 | 6.7 | – |
オルトリン酸 | 2.15 | 7.20 | 12.35 |
酸化と還元
次亜リン酸の酸化還元電位は、
酸性
H2O + HPH2O2 = H2PO3 + 2H+ + 2e–
E0 =0.50
2H2O + P = HPH2O2 + H+ + e–
E0 =0.50
アルカリ性
3PH– + PH2O2– = PHO32 – + 2H<2O + 2e–
E0 =1.57
2OH– + P = PH2O2– + e–
E0 =2.05
アルカリ性溶液ではきわめて還元性が強く、自身は酸化されて亜リン酸あるいはリン酸になる。
亜リン酸は、
酸性
H2O + H2PHO3 = H3PO4 + 2H+ + 2e–
E0 =0.276
アルカリ性
3OH– + PHO3– = PHO43- + 2H2O + 2e–
E0 =1.12
であり、強い還元剤である。